2025年4月21日のブログで、アメリカ食品医薬品局(FDA)が中国の製薬会社に対してデータ・インテグリティの
欠落を指摘して発行したウォーニングレターを取り上げましたが、今回は、南アフリカの製薬会社に対して
コンピュータ化システムの管理の不備を指摘(指摘3)したウォーニングレターを見てみようと思います。
注:文中のXXはウォーニングレターでマスキングされている文言及び具体的な社名・品名等です。
出典:https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/aspen-pharmacare-holdings-limited-701671-02242025
**************** Warning Letter 320-25-46 概要 ****************
2024年9月9日~9月17日のFDAによる南アフリカの医薬品製造所の査察において、医薬品製造に関する
CGMP違反がみつかり、2025年2月10日に輸入警告措置66-40がとられ、2025年2月24日付でウォーニングレター
が発行されました。
●指摘1
貴社は、成分、医薬品容器、蓋、工程内原料、ラベル、医薬品が同一性、濃度、品質、純度の適切な標準に準拠して
いることを保証するために設計された、科学的に理にかなって適切な規格、標準、サンプリング計画、試験手順を
含む試験の管理を確立することを怠った。(21 CFR 211.160(b))
<指摘1詳細>
貴社は、無菌のOTC医薬品XXの適切な規格を制定せず、リリース時及び使用期限中に不純物をモニタすしなかった。
例えば:
・貴社は、リリース前と安定性試験期間中にXXの試験を実施しなかった。
・貴社は、有効成分に塩酸ナファゾリンまたは塩酸テトラヒドロゾリンを含む医薬品の安定性試験期間中の不純物を
モニタするための科学的に正当性のある規格を制定しなかった。
●指摘2
貴社は、無菌をうたう医薬品について、全ての無菌及び滅菌工程のバリデーションを含む、微生物学的汚染を防ぐ
ために設計され文書化された適切な手順に従うことを怠った。(21 CFR 211.113(b))
<指摘2詳細>
□不十分な無菌業務
貴社の施設の査察中、我々は、無菌医薬品XXの製造中のISO5エリア内での不十分な業務と行動を確認した。不十分
な業務には、これに限定されないが、次のものが含まれる:
・作業者は、無菌充填ラインからボトルを取り除くことなく、開いている滅菌ボトルの上に手袋をはめた手を直接置いて、
エアを遮断した。
・作業者は、詰まったボトルを取り除くのに、適切な滅菌ツールを使う代わりに手袋をはめた手を使った。
・重要なエリアでの作業者の動きが、必ずしも入念で計画的でなかった。
・作業者は、多数の穴の開いたゴーグルを使用していたため、ラインのセットアップや無菌作業中に皮膚が露出していた。
□不適切な煙の検証とクリーンルームの設計
貴社の煙の検証は、眼科用医薬品の無菌充填で使用されるISO5エリア内の無菌充填ラインXXとXXの一方向流を適切に
実証していなかった。例えば:
・貴社の煙の検証は、無菌ラインのセットアップ、動的操作、無菌製造作業中に発生する介入のシミュレーションが不足して
いた。
・煙の生成は、一方向流を証明するのに十分ではなかった。
また我々は、基本的な汚染リスクを示すクリーンルームと無菌処理ラインの設計に多数の特徴があったことに注目している:
・作業者とコンベア上の開いている滅菌ボトルの間に物理的なバリアがなかった。貴社の製造作業者は、開いて露出した
ボトルが通るコンベアラインの横に座ったり立ったりして、ISO5の無菌処理エリア内にとどまっていた。
・無菌処理ラインと露出した無菌医薬品や容器/蓋の広範囲な手動操作があった。
・作業者は、XXがXX上に取り付けられてないため、XXまたはXXによる充填中に多数の手動介入を実施した。これらの
介入は貴社の無菌工程に固有のリスクをもたらす可能性がある。
●指摘3
貴社は、許可された職員のみが製造指図記録またはその他の記録に変更を加えることを保証するために、コンピュータ
または関連システムに適切な管理を行うことを怠った。(21 CFR 211.68(b))
<指摘3詳細>
貴社の製造部門及びQUは、ロットのリリース前に、データ・インテグリティを保証するために、電子の生データと監査証跡
をレビュしなかった。貴社の作業者は、複数の製造フィルタの完全性試験が不合格になった後、合格結果を得て印刷した。
作業者は、不合格の結果を記録したり印刷したりしなかった。例えば:
・2024年9月8日、2人の作業者は、XXのロットXXについて、使用後の滅菌フィルタの完全性試験を4回実施した。4回の
試験は、3回の不合格結果と最終的な合格結果が含まれていた。作業者は合格結果のみ報告した。
・2024年7月25日、2人の作業者は、XXのバルクロットXXに関連する9回のフィルタの完全性試験を実施した。9回の
試験は、5回の不合格結果と、3回の中止した試験と、最終的な合格結果が含まれていた。作業者は合格結果のみ報告した。
貴社は回答の中で、不備を認め、製造装置の監査証跡の完全なレビュを実施すると約束した。また貴社は、以上なフィルタ
の完全性試験の調査を完了していることも示した。
●指摘4
貴社は、無菌処理エリアの環境条件モニタリングに関する適切なシステムを制定することを怠った。(21 CFR 211.42(c)(10)(iv))
<指摘4詳細>
貴社は無菌充填ラインXXの環境条件をモニタリングするための適切なシステムを制定しなかった。例えば:
・貴社は作業者が落下したボトルの除去に絶えず立ち会っていたISO5エリア内の空気と表面の生菌のモニタリングを
実施することを怠った。
・貴社は、製品と主要成分が露出している代表的なISO5エリアに非生菌微粒子モニタリング(NVPM)プローブを設置
しなかった。我々査察官は、以下の点に気づいた:
〇XXに最も近いNVPMプローブは、XXの水平面の約XX上にあった。
〇滅菌キャップXXに最も近いNVPMプローブは、XXの水平面の約XX上にあった。
・貴社の作業者は、ISO5エリアをモニタするために、指定された手順とは異なる場所にモバイルNVPM装置を定期的に
設置している。そのため、NVPMのデータは運用で重要なエリアを正確に表してない可能性がある。
●受託業者としての責任
医薬品はCGMPに従って製造されなければならない。FDAは多くの医薬品製造業者が製造施設、試験機関、包装業者、
ラベル貼付業者のような独立した受託業者を使用していることを認識している。FDAは受託業者を製造業者の延長と
みなす。
製品オーナーとの契約に関わらず、貴社には、受託施設として貴社の製造する製品の品質に責任がある。貴社は、
医薬品が安全性、同一性、濃度、品質、純度に関して、FD&C Act 501(a)(2)(B)に従って製造されていることを保証する
必要がある。FDAのガイダンス文書Contract Manufacturing Arrangements for Drugs : Quality Agreementsを見よ。
●CGMPコンサルタントの推奨
我々は、貴社がCGMPの要件を満たすための助けをするコンサルタントを雇ったことを認識している。貴社には、
貴社の使用するコンサルタントが、貴社がCGMPの要件を満たすのを助け、繰り返しの違反を是正するために、
21 CFR 211.34に記載されている適格性があることを保証する責任がある。貴社のコンサルタントの使用は、
CGMPを遵守するための貴社の義務を軽減するものではない。貴社の経営陣には、継続的にCGMP遵守を保証
するために、全ての不備とシステムの欠陥を解決する責任が残る。
●医薬品の製造停止
我々は、貴社がこの製造所での医薬品の製造を中止すると約束したことを認識している。
貴社が、FD&C Actで規定された製造作業の再開を計画する場合、製造作業を再開する前に連絡せよ。貴社には、
貴社が継続的にCGMPを遵守できることを保証するために、全ての不備とシステム的な欠陥を解決する責任がある。
当局への通知の中で、全てのCAPA(是正処置・予防処置)を適切に完了したことを示すために、改善の概要を提出せよ。
●結論
この文書で挙げた違反は、貴社の施設に存在する違反の包括的なリストではない。貴社には、全ての違反を調査し、
原因を判断し、再発やその他の違反の発生を防止する責任がある。
FDAは2025年2月10日に輸入警告措置66-40をとった。
全ての違反を速やかに是正せよ。全ての違反に完全に対応され、我々が貴社のCGMPの遵守を確認するまで、FDAは
貴社の製造業者としての新薬の申請やリストの補完の承認を保留するだろう。また、我々は、貴社が全ての違反に対する
是正処置を完了したことを確認するために査察を行うかもしれない。
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コンピュータ化システムの監査証跡をチェックすれば、不合格の試験結果を省いて合格の試験結果のみを利用していると
いうことが一目瞭然なので、医薬品の品質を保証するうえで監査証跡がいかに重要なものかがよくわかります。
規制当局が監査証跡機能のあるシステムを使い監査証跡を定期的にレビュすることを強く求めるのも当然のことといえる
でしょう。