EU GMP:製薬会社のノンコンプライアンス(2025.1~2025.5)

以前、アメリカ食品医薬品局(FDA)が製薬会社のGMP違反を指摘したウォーニングレターを取り上げましたが、今回は、
EUの規制当局の査察に基づき今年になって発行されたEU GMPのノンコンプライアンスレポート(Non-Compliance Report)
7件を取り上げ、どんな点を指摘の対象になっているかを確認していきたいと思います。

EU GMPノンコンプライアンスレポートは、EUの当局による製造所の査察において、EU GMPに不適合と判断される
不備が見つかった場合に発行されるもので、3部構成になっています。
Part1に確認した当局の名前、製造業者の名前、製造所の住所等、Part2にノンコンプライアントな製造オペレーション、
Part3にコンプライアンス違反の性質、EUの対策等が書かれています。
査察結果を報告するという点ではFDAのウォーニングレターと似ていますが、ウォーニングレターに比べて、指摘の
内容があまり詳しくありません。また、不備を、クリティカル(Critical)、メジャー(Major)、その他(Others)に分類して
いるという特徴があります。
ここでは、Part3の中で指摘されている不備の内容をみていきたいと思います。
出典:https://eudragmdp.ema.europa.eu/inspections/gmpc/searchGMPNonCompliance.do

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■Report No: BE/NC/2024/02■
ベルギーの規制当局が2024/5/31に台湾の製造業者を査察して得た情報から、この製造業者はGMPの要件に準拠して
いないとみなされ、2025/1/13にノンコンプライアンスレポートが発行された。

●コンプライアンス違反の性質
査察中に、2つのメジャーな懸念事項があった:
1.医薬品の無菌性は保証できない
2.交叉汚染のリスクは十分に知られておらず、管理されていない。
無菌処理に関連して以下の問題が確認された:
-会社は、無菌処理に関連し、いくつかの不備を重ねている。例えば、充填ラインのセットアップのアセンブリ
 (無菌コネクタと無菌サンプリングポートの不足)や、充填タンクを収容するブースの特定の構成
 (ファーストエア(Annex1参照)のコンセプトが考慮されていない)に正しく対処していない。さらに、
 無菌処理のシミュレーションの改善と、原材料、充填ライン、装置の滅菌を改善する必要がある。これらの
 要素はいずれもCCS(Contamination Control Strategy)で評価されていない。
-交差汚染に関連して:工場はコルチコイドを含む他の薬物も製造していることが判明した。しかし、原薬の
 ADE(Acceptable Daily Exposure)値は不明で、交叉汚染リスクのリスク分析とそれに基づく
 交叉汚染防止戦略が欠落している。

■Report No: BE/NC/2024/01■
ベルギーの規制当局が2024/11/29にインドの製造業者を査察して得た情報から、この製造業者はGMPの要件に準拠
していないとみなされ、2025/1/13にノンコンプライアンスレポートが発行された。
●コンプライアンス違反の性質
査察中にEU GMPに対する24の不備が確認された。これらのうち、製造された原薬の汚染/交叉汚染につながる
可能性のある多くのメジャーのEU GMP不履行と、患者の安全に関するリスクを排除できないことから、全般的な
不備がクリティカルであると指摘された。メジャーのGMPの不履行は、原材料の汚染/劣化と取り違えの管理、
高度な中間体の汚染/交叉汚染の管理、原薬の汚染/交叉汚染の管理、装置の設計及び洗浄とメンテナンス、
洗浄バリデーション、変更管理と品質リスクマネジメント、逸脱管理、データ・インテグリティと品質管理の分野で
みつかった。

■Report No: PE010-4529■
スペインの規制当局が2024/12/12にスペインの製造業者を査察して得た情報から、この製造業者はGMPの要件に

準拠していないとみなされ、2025/2/6にノンコンプライアンスレポートが発行された。
●コンプライアンス違反の性質
―会社で実施されている医薬品品質システムは、リスクを適切に特定して回避し、製造施設で製造された医薬品の
 品質を保証するために必要な措置をとっていない。逸脱、OOS、OOTの管理は非常に貧弱であり、調査に応じて
 適切な是正処置・予防処置がとられていない。
-会社には、製造された動物用医薬品の適切な品質と安全性を保証するための医薬品品質システムを管理する
 ための十分に適切な職員がいない。
-無菌処理シミュレーション(APS)に関するメジャーの不備や、生存不能および生存可能な粒子のモニタリング、
 一次包装の無菌性、無菌製造室の適格性評価、滅菌フィルターなどに関連するEU GMPガイドラインAnnex1の
 いくつかの不備など、無菌保証が不足している。
-製造施設は、実施された活動を保証するように適切に設計されておらず、メンテナンスの状態が不十分である
 ことが観察された。

■Report No: 401-15/2023-31■
スロベニアの規制当局が2025/1/10にスロベニアの製造業者を査察して得た情報から、この製造業者はGMPの

要件に準拠していないとみなされ、2025/3/10にノンコンプライアンスレポートが発行された。
●コンプライアンス違反の性質
2025/1/10に現地で実施されたフォローアップGMP査察では、不備が(EU GMPガイドラインとスロベニアの法律
に従って) 適切に対処されていないこと、医薬品品質システム(PQS)が定義された通りに実行されていないこと、
データ・インテグリティの問題が残ること、EU GMPガイドラインと制定されたPQSの現在の従業員による理解不足
が確認された。
-6件のメジャーの不備と、16件のその他の不備が確認された。メジャーな不備は、以前の査察以降、不適切に
 排除された/排除されなかった不備、請負業者・逸脱・記録・是正処置・予防処置・苦情のコンプライアンス違反な
 取り扱いの分野で確認された。

■Report No: 2025_NCR_FR_001■
フランスの規制当局が2024/12/20にフランスの製造業者を査察して得た情報から、この製造業者はGMPの

要件に準拠していないとみなされ、2025/3/18にノンコンプライアンスレポートが発行された。
●コンプライアンス違反の性質
38の不備が観察され、そのうち2件がクリティカル、14件がメジャーに分類された。
1.無菌工程の管理と無菌充填に使用されるアイソレータの環境モニタリングの不備は、製品の微生物学的汚染
 の高いリスクにつながる:
 アイソレータのグレードA環境の再発する汚染、不適切なAPS(無菌工程シミュレーション)戦略とプログラム、
 APSの不備とアイソレータの下での繰り返しの微生物汚染の調査の不足を含む重大な逸脱の不十分な処理、
 アイソレータの是正処置とアイソレータのトランスファーエアロック(グレードA)の重大な汚染の特定後に
 APSを実行せずにアイソレータを使用することの許可。
2.APSシミュレーション中のデータと介入の記録、日常的な製造作業のログブックへの記録、さまざまな医薬品の
 文書のひどい乱雑さといったデータ・インテグリティの管理の不備
3.施設、装置、工程の不適切な管理:装置と施設の状態、アイソレータと施設の洗浄と微生物除染、ユーティリティ
 のバリデーションと管理(空気、窒素の圧縮)、完全性試験、滅菌フィルター0,22μm、目視検査工程
4.特にAPS、目視検査、一般的なGMP標準に関する、作業者の不十分な教育と職務の適格性評価
5.不十分な供給者の管理と受託業者の適格性評価。製品品質のリスク。この査察中に、特に品質システムの管理、
 無菌製造工程、データ・インテグリティ、装置の適格性評価、施設のメンテナンス、洗浄および微生物の除染の
 プロセスバリデーション、職員の適格性評価、目視検査、供給者の管理に関して、特に重要な欠陥と不適合が
 確認された。これらの製造状態では、無菌保証を裏付ける意味のあるデータが根本的に不足しているため、
 製品の微生物学的汚染のリスクが特に高く、患者を深刻な危険にさらしている。

■Report No: PE010-4837■
スペインの規制当局が2025/2/11にインドの製造業者を査察して得た情報から、この製造業者はGMPの要件

に準拠していないとみなされ、2025/5/5にノンコンプライアンスレポートが発行された。
●コンプライアンス違反の性質
査察中に28の不備が確認され、そのうち4つはクリティカル、3つはメジャーと分類された。クリティカルな不備は、
品質保証の管理、GMPのAnnex1に関連する無菌作業、装置と施設のメンテナンスと洗浄、コンピュータ化システム
に関連している。メジャーの不備は、分析方法のバリデーション、職員の教育、バッチのリリースの分野で確認された。
見つかった不備は、非滅菌原薬(製造施設の一部も査察対象)と無菌原薬施設の両方の製造に横断的に影響を
及ぼすため、両タイプの製品に関するノンコンプライアンスの発表をすることが決定された。査察中に確認された
最も関連性がある、または、クリティカルな不備は以下の通りである:
-EU GMP Part II、EU GMP Annex1とAnnex11の多数の重大な違反は、製造された製品の品質と、公衆衛生に
 リスクをもたらす可能性があり、品質保証の監督とコアな要件の理解の欠如を示している。重大な欠陥は、この査察
 で文書化されているが、原薬の無菌保証、交叉汚染の管理、施設と装置のメンテナンス、コンピュータ化システム、
 教育など、GMPの規定全体で確認された。
-EU GMP Annex1「無菌医薬品の製造」の基本原則を実施していなかった。その結果、この会社で製造された医薬品
 の有効成分(原薬)の無菌性は保証できず、ヒト・動物の健康にリスクをもたらす。これに限らないが、製造所の設計、
 原材料の管理、無菌エリアでの職員の行動、露出面の品質、および改訂されたAnnexおよび一般的なGMP要件に
 関して適用される要件、リスクとリスク軽減策の確認の欠如に関連する多くの重要な不備が製造所内でみつかった。
-使用される施設や装置の洗浄・メンテナンスの状況のせいで、製造された非滅菌原薬・中間体の汚染/交叉汚染の
 重大なリスクがある。オーラル区画の査察中にみつかったいくつかの内容は、有効成分の製造施設と装置が長年に
 わたって適切にメンテナンスされておらず、その結果、それらの状態が大幅に悪化し、原薬の品質、ひいては患者に
 リスクをもたらしていると結論付けている。これらの査察結果には、メンテナンスと洗浄の不足、腐食やコンクリート
 のひび割れ、液体漏れの兆候、手洗い設備の不足、不十分なメンテナンス・管理・衛生に関するその他の重大な状態
 が含まれる。
-データ・インテグリティに関するいくつかの潜在的な違反が見つかった。コンピュータ化システムに関連する主要事項
 に対処されていなかった。会社は、EU GMPAnnex11およびEU GMP Part IIセクション5.4ffに概説されている
 コンピュータ化システムに関する基本的な要件を実装することを怠った。確認された欠陥は、分析試験の不具合や
 データ・インテグリティの違反につながる可能性がある。
 特に、HPLCシステム上の古いオペレーティングシステム(Windows XP、Windows 7)の不具合、トレーサビリティ
 (監査証跡など)の欠如、または一部のHPLCの手順の変更の承認、オペレータの権限の問題、およびコンピュータ化
 システムのバリデーションの不足が確認された。
-会社は、GMPのルールの重要な事項である、教育(例えば、レビュされたAnnex1または職員の教育の要件の不履行)、
 分析法の検証(実施する予定さえない)、バッチリリースの検証も無視している。

■Report No: MT/002NCR/2025■
マルタの規制当局が2024/5/13に南アフリカの製造業者を査察して得た情報から、この製造業者はGMPの要件に
準拠していないとみなされ、2025/5/15にノンコンプライアンスレポートが発行された。

●コンプライアンス違反の性質
非無菌剤形、特に、大麻医療製品(花序)の分析試験(化学的および微生物学的)に関する現地査察 (2025年4月10日~
13日)の後、査察後のレターの草案上でクリティカルとメジャーに分類された不備が、査察官のレビュグループ(IRG)
によってレビュされた。この査察は、同社のEU GMP認証の適格性を評価することを目的としていた。査察の結果、
4つのクリティカルな不備と、3つのメジャーな不備が確認された。クリティカルの査察結果は、バリデーションと適格性
評価の活動、品質管理の化学および微生物の分析作業に関するものだった。メジャーの不備は、リスクの考慮と
リスクアセスメント、逸脱管理とITシステム、およびデータ・インテグリティに深刻な影響を与えるバックアップなどに
関するものだった。査察の結果、現在、EU/EEA市場向けの製品の分析試験を実施していないことが確認された。
これらの結果に基づき、IRGは、EU GMP認証は付与できないと結論付け、Compilation of Union Proceduresに
従ってGMP不適合を発表することになった。
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無菌保証の不備、交叉汚染関連、データ・インテグリティの不備に関する指摘が多いように思います。

また、6件目(Report No: PE010-4837)の、古いOSの問題、監査証跡の不備、オペレータのアクセス管理の不備、
コンピュータ化システムバリデーション(CSV)の不足、7件目(Report No: MT/002NCR/2025)のバックアップの
不備は、Annex11に基づいたかなり詳細な指摘で興味深いです。

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