過去にも米国食品医薬品局(FDA) が中国の製薬会社に対しコンピュータ化システムの管理の不備に対して発行した
ウォーニングレターを取り上げましたが、今回は最近オランダの製薬会社のコンピュータ化システムの管理の不備に
関する指摘を見てみようと思います。
注:文中のXXはウォーニングレターでマスキングされている文言及び具体的な社名・品名等です。
出典:https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/nwl-netherlands-services-bv-701206-04012025
********************** Warning Letter 320-25-59 概要 *********************
2024年10月14日~10月18日のFDAによるオランダの医薬品製造所の査察において、医薬品製造に関する
CGMP違反がみつかり、2025年4月 1日付でウォーニングレターが発行されました。
●指摘1
貴社は、ロットがすでに出荷されたかどうかにかかわらず、製造したロットまたはその成分の、規格との説明のつかない
不一致や不具合を徹底的に調査することを怠った。(21 CFR 211.192)
<指摘1詳細>
貴社の調査は、十分な根本原因の特定、是正処置・予防処置(CAPA)、影響を受けた可能性のある全てのロットの
評価に欠けていた。例えば、貴社は、繰り返し発生するXXシステム内の限度外(Out-of-Limit:OOL)の微生物含有量
について適切に調査をしなかった。貴社は、医薬品の主要成分として、XXシステム内で生成されたXXを使用していた。
2024年貴社では7件のOOLが発生し、そのうち少なくとも2件は、10,000コロニー形成単位(CFU)/mLの高い数値
だった。最初のOOLの発生後、次のOOLの発生に対する貴社の対応は、最終製品の試験結果を信頼し、発生前後の
日のXXシステムの試験結果のレビュに限定されていた。
貴社は、医薬品の製造に適したXXを一貫して製造できると示していなかった。少なくともXXは、XXに関する微生物の
限度値に関する米国薬局方(USP)のモノグラフを満たしている必要がある。医薬品の使用に適したXXを安定して製造
することを保証するために、貴社がシステムを効果的に管理、維持、モニタすることが不可欠である。
貴社は回答の中で、OOLの結果を得た際に、影響を評価する個別の調査を実施する予定であると示している。また
貴社は、貴社の品質部門はXXに基づいてXXの結果をレビュし文書化する予定であるとも示している。さらに、貴社は、
OOLの結果を報告し上司に伝えるタイミングについて、品質チームを教育するとも約束している。
貴社の回答は不十分である。医薬品の製造に使用されるXXの微生物含有量の包括的で回顧的なリスクアセスメント
の結果を提供することも、OOLの結果の全ての範囲と影響の評価も怠っている。さらに、貴社は、手順の改定や教育記録
のようなことが記載されたCAPAに関する裏付けの文書を提出していない。
この文書への回答の中で以下の情報を提供せよ:
・逸脱、不一致、苦情、規格外(Out-of-Specification: OOS)の結果、不具合の調査に関する貴社のシステム全体の
包括的で独立したアセスメント
このシステムを改善するための詳細なアクションプランを提出せよ。貴社のアクションプランには、これに限定され
ないが、調査能力、調査範囲の決定、根本原因の評価、CAPAの有効性、品質保証部門の監督、文書化された手順
の大幅な改善を含めるべきである。貴社が調査の全ての段階が適切に実施されることをいかに保証するつもりかに
ついても述べよ。
〇貴社の最新の調査手順と、調査の開始方法、文書化方法、完了方法も明確に説明せよ。
・発見されたXXシステムの不具合が、現在アメリカで流通し使用期限内にある全ての製品のロットの品質に与える
可能性のある影響について検討した詳細なリスクアセスメント
リスクアセスメントの結果に対応して貴社がとる予定の、顧客への通知や製品回収などのアクションを明記せよ。
●指摘2
貴社は、同一性と、純度・濃度・品質に関して文書化された全ての適切な規格への一致について、各成分のサンプルを
試験することを怠った。また貴社は、適切な間隔で、成分の供給者の分析試験の信頼性をバリデートし確証することを
怠った。(21 CFR 211.84(d)(1) & 211.84(d)(2))
<指摘2詳細>
貴社は、有効成分XXを含む、OTC医薬品の製造に使用される成分の各ロットの同一性試験を実施することを怠った。
また貴社は、貴社の供給者の分析証明書(Certificates-of-Analysis: COA)を信頼し、適切な間隔で各成分供給者の
分析試験の信頼性を確証することを怠った。
貴社は回答の中で、不純物に関し、XXのような入荷原材料の試験を必要とするよう貴社の手順を改定する必要が
あることを認めた。
貴社の回答は不十分である。貴社は、入荷原材料の中のXXのような不純物に関する規格を提出することを怠った。
成分や原材料の適切な試験を実施しなければ、貴社は貴社の医薬品の品質と安全性を保証できない。
貴社は、XXを含む複数の医薬品を製造している。XXに汚染されたXXの使用は、世界中の人々に致命的な中毒事件を
引き起こしてきた。FDAの文書を見よ。
この文書への回答の中で、以下の情報を提供せよ:
・成分、容器、蓋の全ての供給者がそれぞれ適格で、原材料には適切な使用期限またはリテスト日付が付与されて
いるかどうかを判断するための、貴社の原材料システムの包括的で独立したレビュ
レビュでは、入荷した原材料の管理が、成分、容器、蓋の不適切な使用を防ぐために適切であるかも判断すべきである。
・製造に使用するために、貴社が入荷した成分の各ロットを試験しリリースするのに使用している、化学及び微生物学的
な品質管理の規格
・同一性、濃度、品質、純度に関する全ての適切な規格への準拠について、成分の各ロットを貴社がどのように試験する
つもりかの説明
もし貴社が、濃度、品質、純度に関し成分の各ロットを試験する代わりに供給者のCOAの結果を受け入れる場合は、
初期のバリデーションと定期的な再バリデーションを通じて、供給者の試験結果の信頼性を確実に検証する方法を
明記せよ。さらに、入荷した成分の各ロットに関し、少なくとも1つの特定の同一性試験を常に実施するという約束を含めよ。
・アメリカ市場にある使用期限内の、入荷時に同一性試験が実施されていないXXを使用して製造されたロットの製品品質
のリスクの包括的なアセスメント
・リリースされアメリカで流通している使用期限内のXX医薬品の全てのロットに関するXX試験
●指摘3
貴社は、権限を持った職員だけが製造指図書原本及びその他の記録の変更を開始できることを保証するために、
コンピュータ及び関連システムの適切な管理を実施することを怠った。(21 CFR 211.68(b))
<指摘3詳細>
最終製品のリリースに関する分析データを生成するために使用されている貴社の試験装置には、アクセス制限と十分な
管理が不足していた。貴社のシステムが、データの削除や記録の改ざんを防ぐための適切な管理をしていたという保証
がない。例えば、貴社は固有のユーザ名とパスワードを設定せず、ラボの職員は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、
ガスクロマトグラフィー(GC)、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)のファイルを削除したり修正したりするアクセスが
制限なしで許可される管理者権限を持っていた。さらに貴社は、貴社の試験装置で生成されたデータのバックアップを
適切に保持していなかった。
電子記録の情報の全ての追加、削除、修正が許可の上実施されたものであり、適切に文書化されることを確実にする
ためにCGMPの電子データに対して厳格な管理を維持することが重要である。完全で正確な記録がなければ、貴社は
医薬品の品質を継続的に保証するために不可欠なロットのリリース、安定性、及びその他の判断を適切に実施できる
ことを保証できない。
貴社は回答の中で、貴社の品質部門のリーダが、ファイルの無許可の編集や削除がされていないことを確認するために、
ソフトウエアシステムとデータのXXのレビュを実施する予定であると述べた。また貴社は、各職務の実施に必要な
アクセス権を確認するための手順を作る予定であるとも述べた。
貴社の回答は不十分である。貴社の回答は、削除または修正されたデータを特定するための、貴社のシステムの
包括的なレビュの情報を提供することを怠っている。
この文書への回答の中で、以下の情報を提供せよ:
・貴社の文書化業務の不十分な箇所を特定するための、貴社の製造及び試験の作業を通じて使用されている文書化
システムの完全なアセスメント
貴社が、貴社の作業全体を通じて、帰属可能、判読可能、網羅性があり、原本性があり、正確で、同時性のある記録を
保持していることを保証するための、貴社の文書化業務を包括的に改善する詳細なCAPAの計画を含めよ。
・コンピュータシステムの性能とセキュリティの包括的で独立したアセスメント
設計と管理の脆弱性を特定するレポートと、以下の要素に対処した貴社のラボの各コンピュータに関する徹底的な
CAPAの計画
〇貴社のラボで使用されている全てのハードウエア(スタンドアロンとネットワークの両方)とソフトウエアのリスト
〇これに限定されないが、構成、管理者権限、パスワード管理、監査証跡機能、各システムの実装状態、適格性評価/バリ
デーションの状況、逸脱の履歴、バックアップ機能、ネットワーク要件、データレコードの完全性、使用目的に対する
現在のハードウエア/ソフトウエアの適合性、変更管理、運営監督を含む、これらの全てのコンピュータシステムの
性能とセキュリティの脆弱性を特定し評価せよ。
〇各システムのユーザ制限に関する詳細を述べよ。
〇ラボのコンピュータシステムへのアクセス権を持った全ての職員のレベルの役割と関連したユーザ権限、組織の
所属、責任、役職を明記せよ。管理者権限を持つ全ての職員を明確に指定せよ。
〇ラボの試験に関する職員と管理者権限を持った職員の分離をいかに保証するかを完全に説明せよ。管理者権限
を持つことを許された全ての職員の役割について、その権限の範囲と種類を明記せよ。
〇固有のユーザ名とパスワードが使用されているかを判断するために各システムを評価せよ。
〇監査証跡、データ削除の禁止、結果の適切な修正に焦点をおいた、コンピュータとデータガバナンスに関する
ポリシーと手順を評価せよ。貴社がデータの削除と、文書化されない/不適切なデータの修正をいかに防いで
いるかを明記せよ。また貴社が、データと情報の原本が常に保存されていることをいかに保証するかにつても
述べよ。監査証跡のレビュに関する手順を提出せよ。
〇ラボの全てのシステムのデータの保持とバックアップに関する要件を提出せよ。
・CAPAの計画が実施されている間、信頼できる性能とセキュリティを保証するための暫定的な管理についてまとめよ。
●CGMPコンサルタントの推奨
貴社で確認した違反の性質に基づき、我々は、貴社がCGMPの要件を満たすのを助けるために、21 CFR 211.34に
記載された貴社の作業を評価する適格性のあるコンサルタントを雇うことを強く勧める。貴社のコンサルタントの使用
は、CGMPを遵守するための貴社の義務を軽減するものではない。貴社の経営陣には、継続的にCGMP遵守を保証
するために、全ての不備とシステムの欠陥を解決する責任が残る。
●結論
この文書で挙げた違反は、貴社の施設に存在する違反の包括的なリストではない。貴社には、全ての違反を調査し、
原因を判断し、再発やその他の違反の発生を防止する責任がある。
全ての違反を速やかに是正せよ。全ての違反に完全に対応され、我々が貴社のCGMPの遵守を確認するまで、FDA
は貴社の製造業者としての新薬の申請やリストの補完の承認を保留するだろう。また、我々は、貴社が全ての違反に
対する是正処置を完了したことを確認するために査察を行うかもしれない。
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3つ目の指摘が、コンピュータ化システムの管理の不備に関する指摘でした。
ラボの試験装置のコンピュータの査察で、ユーザ権限の使い回し、不十分なアクセス管理がみつかったようです。
“帰属可能、判読可能、網羅性があり、原本性があり、正確で、同時性のある記録を保持していることを保証せよ”と、
ALCOAの原則(※)の要件を守るようCAPAを実施することが求められていました。
※AOCLAの原則=データの完全性(Data Integrity)を保証するための要件
Attributable:帰属可能であること(データが誰によって生成されたかわかること)
Legible:判読可能であること(データが判読できて、理解できること)
Contemporaneous:同時性があること(データが生成されたタイミングで記録されること)
Original:原本性があること(データがコピーではないこと)
Accurate:正確であること(データが正確であること)
指摘を受けた工場をGoogle Mapで調べたら、アムステルダムから30kmくらいの場所にあるさほど大きくない工場
でした。(日本でいうと、田舎の工業団地にある中規模の製薬工場のイメージです)
それはさておき、日本の製薬工場でも同様なことがありそうです。