前回は、米国食品医薬品局(FDA)が製薬会社のGMP違反を指摘したウォーニングレターを取り上げましたが、今回は、EUの規制当局の査察に基づき
今年になって発行されたEU GMPのノンコンプライアンスレポート(Non-Compliance Report)6件を取り上げ、どんな点が指摘の対象になっているか
を確認していきたいと思います。
EU GMPノンコンプライアンスレポートは、EUの当局による製造所の査察において、EU GMPに不適合と判断される不備が見つかった場合に発行
されるもので、3部構成になっています。
Part1に確認した当局の名前、製造業者の名前、製造所の住所等、Part2にノンコンプライアントな製造オペレーション、Part3にコンプライアンス違反
の性質、EUの対策等が書かれています。
査察結果を報告するという点ではFDAのウォーニングレターと似ていますが、ウォーニングレターに比べて、指摘の内容があまり詳しくありません。また、
不備を、クリティカル(Critical)、メジャー(Major)、その他(Others)に分類しているという特徴があります。
ここでは、Part3の中で指摘されている不備の内容をみていきたいと思います。
出典:https://eudragmdp.ema.europa.eu/inspections/gmpc/searchGMPNonCompliance.do
※具体的な社名・品名等は、“XX”と記載してあります。
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■Report No: NCEMIX/2025/001■
キプロスの規制当局が2023/4/11にキプロスの製造業者を査察して得た情報から、この製造業者はGMPの要件に準拠していないとみなされ、2025/6/19
にノンコンプライアンスレポートが発行された。
注:査察日(2023/4/11)は原文のまま記載しています。
●コンプライアンス違反の性質
許可されていない企業、または、意図された範囲に合致しない活動を行う企業への中間体製品の供給
●規制当局によりとられた/提案された措置
製造認可番号044の完全な取り消し
●供給の禁止
本不適合通知書の発行日から適用
●追加コメント
前回の査察で得られた情報によると、XX社は中間体製品をギリシャ国内の企業にのみ供給していた。
■Report No: NL/H 25/2057693■
オランダの規制当局が2025/6/5にインドの製造業者を査察して得た情報から、この製造業者はGMPの要件に準拠していないとみなされ、2025/10/14
にノンコンプライアンスレポートが発行された。
●コンプライアンス違反の性質
オランダ保健・青少年ケア監督局(IGJ)は、2025/6/2から2025/6/5に、定期的なGMP査察を実施した。対象製品は、オランダ市場への再投入が予定
されていたXXだった。査察の結果、7件のメジャーな不適合と10件のその他の不適合がみつかった。IGJは、不適合事項の数と重大性に基づき、当該企業
がGMPに準拠していないと結論付けた。
重大な不適合事項は以下のとおりである:
1. 文書、旧版の印刷物、参考品サンプル、スペアパーツ、その他の廃棄物の保管および保存が不適切である。
深刻な問題のある部屋が2つ見つかった:壁にひどいカビや湿気によるシミがあり、文書が乱雑に保管され、正体不明のドラム缶(おそらく進行中の
ロット)が置かれている‘文書室’。廃棄されたGMP文書、旧版の印刷物、旧版の参考品サンプル、その他のゴミが分類されずに乱雑に保管されており、
さらに契約従業員の更衣室としても使用されている隣接した部屋。
2. 品質システムが十分に機能していない。逸脱、変更、OOSの管理および調査において多くの問題が見つかった。PQR(製品品質レビュ)および経営陣
によるレビュが不完全に実施されていた。
3. 外部委託業務が十分に定義、合意、および/または管理されていない。対象製品のすべての供給業者の再適格性評価が期限切れになっていた。
原薬供給業者は2018年以降監査されていなかった。再適格性評価の手続きにおける重大な不備と不完全な供給業者契約が確認された。
4. XXのオランダ市場への再投入が管理されていない。適用されている分析試験の限度規格は、製造販売承認書に規定されている規格よりも低い;
XXの錠剤の分析結果の平均値による適合判定が許容されていた;製造販売承認取得者との合意が不足していた。
5.洗浄、環境モニタリング、水質モニタリングにおける多くの問題が示す通り、汚染管理が不十分である。例としては、清浄度ラベルの欠落、ホースの
不適切な保管、汚れた服装やガウン、不完全な洗浄手順、機器の予防保全および点検の欠落、環境モニタリングにおけるQRM(品質リスク管理)の原則
および正当性の欠落、日常業務を代表しないEM(環境モニタリング)測定、EMおよびHVAC(空調設備)の手順の不遵守、水質測定の頻度の低さ、
および不完全な傾向分析などが挙げられる。
6. バリデーションおよび適格性評価が構造的に不適切に実施、評価、およびレビュされている。洗浄およびプロセスバリデーション、分析法バリデーション、
および部屋の適格性評価において重大な問題が発見された。これらの問題のほとんどは(重要な)要素の欠落に関連するものだが、手順の不遵守、報告の
不備、結果の解釈の誤りなども含まれる。
7. 適正文書管理(GDP)および文書管理における不備。広範な問題が発見された。特に、管理されていない文書、不完全または不正確な文書、および
記名に関する問題である。さらに、説明のつかないデータ、データの入力漏れ、署名の欠落なども確認された。
●既に流通している製品の回収
規制当局による潜在的な品質欠陥と供給制限の評価に基づき、回収を検討する。製品自体に直接的なリスクは特定されなかったものの、重大な欠陥の
性質と複数の欠陥が複合的に発生することによる累積リスクは、製品の品質低下につながる可能性がある。会社から入手した情報によると、2021年以降、
EU向けに製造されたのはXXのみであり、2022年に24ロット、2024年に12ロットが製造された。製造規模が小規模(最大10万錠/ロット)であることから、
IGJは市場に残っている錠剤は限られた数であると推定している。現在のところ、販売承認はオランダとポーランドで取得されており、その他の国への
流通状況は不明である。
●供給の禁止
規制当局による措置が有効である間は、会社はEU市場への供給を行ってはならない。市場への供給を再開する前に、再査察に合格することが推奨される。
■Report No: 24.05.05.01-Neuraxpharm■
ドイツの規制当局が2025/7/4にインドの製造業者を査察して得た情報から、この製造業者はGMPの要件に準拠していないとみなされ、2025/7/11に
ノンコンプライアンスレポートが発行された。
●コンプライアンス違反の性質
本査察は、デュッセルドルフ地方自治体の主導機関、INFRAMED I.P.を支援機関として、また、EMAの中央集中型GMP査察として2025/6/28日から
2025/7/4にかけて実施された。当該企業は、錠剤、カプセル剤、経口懸濁用粉末、口腔内崩壊フィルム、舌下フィルム、一次包装、二次包装、品質管理、
保管および流通を対象としたGMP証明を申請していた。査察の結果、2件のクリティカルな不適合と7件のメジャーな不適合が確認されたため、
査察チームは、欧州委員会委任規則(EU)No. 1252/2014および2003/10/8/付欧州委員会指令2003/94/ECに規定されているGMPの原則および
ガイドラインへの不遵守に関する声明を当該施設に対して発行することを決定した。GMP査察報告書には、不遵守事項の原因に関する詳細が記載
されており、EMAから近日中に公開される予定である。
クリティカルな不適合は、ログブック、試験成績書、メンテナンスレポートなどの関連文書全体におけるデータ・インテグリティの重大な欠陥、および1号棟
のHVACログブックにおける不正行為に関連している。
メジャーな不適合は、製造室におけるペレット製造時の許容できない状態(床がべたつき、汚れている)、規格に基づく品質保証管理の未実施、6号棟の
サンプリングブースにおける施錠されていない裏口および施錠できないドア、QCの計算におけるバリデートされていないExcelの使用、複数の廊下に
おける差圧の機能不全、1号棟の安定性試験室における温度逸脱の未調査、すべてのGMPエリアにおける環境モニタリングの未実施、およびLAF内
の清掃機器の不衛生な状態に関連している。
●その他
市場における措置は、医薬品の市場供給不足を回避するため、各加盟国がQRM原則に基づいて決定すべきである。さらに、当面の間、新規販売承認
申請、既存の販売承認申請の追加または変更申請は承認されるべきではない。追加の査察によって当該施設が完全に適合していることが確認されない
限り、GMP証明書は発行されるべきではない。最後に、加盟国は、製品固有の影響評価のために、NAPs/MRPs/DCPsに関する該当する販売承認取得者
(MAH)に連絡することが推奨される。
■Report No: MT/003NCR/2025■
マルタの規制当局が2025/7/29にトルコの製造業者を査察して得た情報から、この製造業者はGMPの要件に準拠していないとみなされ、2025/9/10
にノンコンプライアンスレポートが発行された。
●コンプライアンス違反の性質
当該企業からの申請に基づき、EU GMPガイドラインへの準拠を評価するため、現地でGMP査察が実施された。現地査察において、査察官は1件の
クリティカルな不適合、4件のメジャーな不適合、およびその他の不適合19件を指摘した。特に、QCラボにおけるデータ・インテグリティに関する重大な
不備はクリティカルな懸念事項であり、電子データのトレーサビリティ、セキュリティ、および管理が確保されていないことを示していた。メジャーな不適合
は、OOSの管理の不備、サンプリング、試験、および外部委託試験における管理の不十分さに関連していた。さらに、交差汚染防止対策の不備、製造工程
における不備、および保管区域の温度マッピングにおける不適合もメジャーな懸念事項として挙げられた。これらの結果を受け、マルタ医薬品庁の
査察審査グループ(IRG)は会議を開催し、指令(EU)2017/1572に規定されている医薬品製造管理および品質管理に関する基準およびガイドラインへの
不適合声明を当該施設に対して発行することを決定した。
●販売承認の停止
加盟国は、不適合声明が有効である間、進行中の販売承認申請の状況を見直すべきかどうかを検討する必要がある。影響を受ける加盟国における
供給制限よりも、潜在的な品質欠陥が公衆衛生に与える影響が大きい場合は、当該加盟国に対する措置を検討すべきである。
●追加コメント
監督リスク評価案は、緊急警告ネットワークを通じて各国規制当局(NCA)に配布され、意見募集の期限は2025/9/2(発行日から1週間後)に設定された。
回答は1件のみで、EU/EEA市場には該当する製品のロットは流通していないことが確認された。その他の回答は寄せられず、EU/EEA市場および
MRAパートナー市場には該当する医薬品は流通しておらず、重要な医薬品も流通していないことが確認された。
■Report No: DE_BE_01_NC_2025/01■
ドイツの規制当局が2025/7/30にカナダの製造業者を査察して得た情報から、この製造業者はGMPの要件に準拠していないとみなされ、2025/9/11
にノンコンプライアンスレポートが発行された。
●コンプライアンス違反の性質
査察は2025/7/24から2025/7/30に実施された。査察の結果、10件のメジャーな指摘事項が確認された。そのうち1件は、まだ完成していない外部倉庫
に関するものであり、現在の生産には影響を与えていなかった。また、別の1件は、計画中の製品のプロセスバリデーションに関するものだった。その他
のメジャーな指摘事項は、GMP基準を満たしていない施設からの乾燥大麻花の購入、環境条件を監視するための校正・検証済みのモニタリングシステム
の欠如、安定性試験、文書・サンプル・機器・製品に関する管理システムの不備、データ・インテグリティ、および施設の適格性評価に関するものでした。
さらに、初回査察で指摘された事項に対する是正処置がすべて実施されていないことが判明した(ただし、これらの是正処置は会社によって実施済みと
されていた)。したがって、フォローアップ査察が必要である。
●既に流通している製品の回収
証明書発行後、複数のロットがEU域内に輸入されている。回収の決定は、各国の所管当局の裁量に委ねられている。ベルリンの所管当局は、ベルリンの
輸入業者によってこれまでに輸入された唯一のロットについて、市場からの回収を決定した。影響を受けた薬局は1軒のみであったため、緊急警告通知
は発出されなかった。
●供給の禁止
GMP遵守が査察によって確認されるまで、新たなロットの輸入および市場への供給は禁止されるべきである。
●追加コメント
GMP証明番号DE_BE_01_GMP_2023_0085の制限または取り消しは不要である。このGMP証明は2022/9/8の査察に基づいて発行されたが、
すでに有効期限が切れている。今後の査察で当該施設が完全に基準を満たしていると判断されない限り、新たなGMP証明は発行されるべきではない。
関係当局には、この草案について意見を述べる機会が与えられた。
■Report No: IT/NRC/01/H/2025■
イタリアの規制当局が2025/9/19にイタリアの製造業者を査察して得た情報から、この製造業者はGMPの要件に準拠していないとみなされ、
2025/10/23にノンコンプライアンスレポートが発行された。
●コンプライアンス違反の性質
会社は非滅菌のバルク製品のみを製造している。製造活動はEU GMP基準に準拠していないことが判明した。医薬品品質システムは、適切なGMPの
実施と原材料および製造工程の完全なトレーサビリティを確保するには不十分であると判断された。製品ライフサイクル全体を通して、原材料の
トレーサビリティに不備が確認された。経営陣の責任は正式に定義されていたが、効果的な品質管理システムは導入されていなかった。
査察結果:11件の逸脱が確認され、うち3件はクリティカルな逸脱と分類された。主な指摘事項は以下のとおりである。:
1) 原材料がnon-GMPエリア/部屋に保管されていた。
2) non-GMPの部屋に保管されている原材料と製造記録(BR)に記載されている原材料との間に不一致があった。
3) 上級管理職が効果的な品質管理システムを導入していなかった。
4) ERP(SAP)情報システムは、資材、原材料、および添加剤の完全な照合とトレーサビリティを確保するために必要なすべてのメタデータを追跡
していない。
5) 計量器におけるユーザーログインが適切に追跡されていない。
6) 一部の容器のラベルに”技術試験”と記載されている。これらの活動は、機器の適格性評価のプロセスの一環として、または顧客の単純な要求に
基づいて実施されており、実施された適格性評価の適合性および/または定められた頻度は信頼できない。
7) 生産設備の一部(例:CD4自動コーティング機)の適格性評価がAnnex11に従って実施されていない。
●規制当局によりとられた/提案された措置
製造販売承認番号 aM-14/2025 の全面的な一時停止
現在有効なGMP証明書番号 IT/21/H/2025 の取り消し
現在有効なGMP証明書番号 IT/21/H/2025 の制限
●既に市場に出荷されたロットの回収
市場における供給不足を回避するため、各加盟国はQRM(品質リスクマネジメント)の原則に基づき、市場措置を決定する必要がある。さらに、
現時点では、製造販売承認申請、製品ライン拡張、または既存の製造販売承認申請の変更申請は承認されるべきではない。
●供給の停止
XX社の医薬品の供給不足は、現実的なリスクとはみなされていない。代替供給業者の有無および供給不足のリスクは、個々のケースごとに評価
する必要がある。
●その他
この製造業者は、不適合に関する声明が有効である限り、医薬品に関する新規/継続中の製造販売承認申請または変更申請において承認される
べきではない。
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3件目のバリデートされていないExcelの使用や、6件目のERPのメタデータのトレーサビリティの不足、生産設備のAnnex11による適格性評価の
不実施など、コンピュータ化システムに関する具体的な不備の指摘があるのが興味深いです。
2025年5月26日のブログ“EU GMP:製薬会社のノンコンプライアンス(2025.1~2025.5)”で見た時も感じたことなのですが、EUの規制当局の
査察は、コンピュータ化システムをかなりしっかりと確認しているように思います。
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2025年11月25日(火) 12:30-16:30、情報機構社主催で、改訂予定EU GMPガイドラインAnnex11に関するセミナを開催します。
改訂内容や対応のための準備にご興味をお持ちの方は是非ご参加ください。
●セミナ名:
EU GMPにおけるコンピュータ化システムの改訂動向とその対応~Annex11等における新たな要求事項・変更点と実施すべき事柄など~
●日時:
2025年11月25日火曜日12:30-16:30
●会場:
[東京・大井町]きゅりあん5階第2講習室
http://www.johokiko.co.jp/access/kyurian/
●本講座ホームページアドレス:
https://johokiko.co.jp/seminar_medical/AA2511N5.php
お申込みの際、備考欄に 講師紹介割引希望の旨と「C-753」 の講師紹介専用番号を記載いただきますと、講師紹介割引が適用されます
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