今回は、米国食品医薬品局(FDA) がインドの受託試験機関に対しデータ・インテグリティの欠落を指摘したウォーニングレターを取り上げます。
データ・インテグリティと聞くと耳にタコができそうですが、現在パブリックコメントを募集中のEU GMPガイドラインのドラフトには、これでもか
というほど“データ・インテグリティ”の文字があふれていて、もはや重要な規制要件になったことを痛感します。
FDA査察官に何をデータ・インテグリティの欠落と指摘されたのか確認していきます。
出典: https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/shiva-analyticals-private-limited-707857-07232025
***************************** Warning Letter 320-25-96 概要 *****************************
2025年1月20日~1月24日のFDAによるインドの受託試験機関の査察において、CGMP違反がみつかり、2025年7月23日付でウォーニング
レターが発行されました。
●指摘1
貴社は、ロットがすでに出荷されたかどうかにかかわらず、製造したロットまたはその成分の規格書との説明のつかない不一致や不具合を
徹底的に調査することを怠った。(21 CFR 211.192)
<指摘1詳細>
貴社は、規格外(OOS)の試験結果を適切に調査することを怠った。貴社のラボのインシデントやOOSの結果に対する調査は、根本原因の
判断を裏付ける適切な科学的根拠を欠き、前に分析されたロットまで対象を広げていなかった。新しい試験結果は、適切な根本原因の調査も
なしに、OOSの結果を無効にする根拠として使用された。
さらに我々の査察で、貴社は、過去3年間のラボのインシデントとOOSの調査の件数に大きく寄与した特定の繰り返し発生する人的エラーを
減らすための、適切で効果的な是正措置・予防措置(CAPA)を講じていないことが判明した。
貴社は回答の中でOOSの結果とラボのインシデントの取り扱いに関する標準操作手順書(SOP)が、効果的に傾向を評価し、原因を特定し、
適切で総合的なCAPAの実施を可能するためには不十分であることを認めている。また貴社は、人的エラーを評価する手順がなく、貴社の
品質部門(QU)によって評価されない重大な傾向の一因となっていたことも認めている。貴社は新しく実装された傾向評価プログラムに
基づき、CAPAの有効性を改善することを約束している。
貴社は、再試験、仮説検証、再サンプリング及び根本原因の分析のための科学的に妥当で適切な手順を使って、いかにラボのOOSの結果が
適切に調査されることを保証するかについて対処していないので、貴社の回答は不十分である。
不具合、規格外、傾向外、またはその他の予期しない結果や、貴社の調査の文書化の取り扱いに関する詳細な情報については、FDAの
ガイダンス文書Investigating Out-of-Specification(OOS) Test Results for Pharmaceutical Productionを見よ。
貴社は、受託試験機関として、これに限定されないが、品質管理部門、ラボ、調査システム、文書化システムの運用に対応する作業に適用
されるCGMPを遵守する必要がある。
FDAは請負業者を製造業者自身の施設の延長とみなす。貴社のCGMPの不遵守は、貴社がクライアントのために試験した製品の品質、
安全性、有効性に影響を与える可能性がある。貴社がCGMPを完全に遵守して作業し、医薬品の試験中にみつかった重大な問題を顧客
またはクライアントに通知する責任を理解することが不可欠である。一方、貴社のクライアント(例:医薬品製造業者、申請スポンサ)は信頼性
の高い試験と方法の実施をサポートするために必要な全ての科学的データと情報を提供する必要がある。
さらなる情報については、FDAの業界向けガイダンスContract Manufacturing Arrangements for Drugs: Quality Agreementsを見よ。
この文書への回答の中で、以下の情報を提供せよ:
・全ての最終製品試験に関する全てのラボのインシデントの調査とOOSの結果の回顧的で独立したレビュ
過去3年間の、米国向けであった可能性のある製品を特定し、各OOSについて以下の情報を含む分析結果をまとめたレポートを作成せよ:
〇無効とされたOOS の結果に関連する科学的正当性と証拠が、原因となるラボのエラーを決定的または非決定的に示しているかどうかを
判断せよ。
〇ラボの根本原因を決定的に特定する調査について、論理的根拠を提供し、同じまたは類似の根本原因に対して脆弱な他の全ての
試験方法が改善のために特定されていることを保証せよ
〇回顧的なレビュにより確認された全てのOOSの結果について、潜在的な根本原因を特定し、不具合が顧客に通知されたかどうかを示せ。
オリジナルの試験、試験日、試験結果、顧客、調査を開始した理由も含めよ。
〇試験の不具合の通知後の貴社の顧客からの書面による回答。
・逸脱、インシデント、苦情、OOSの結果、不具合の調査に関する貴社のシステム全体の独立したアセスメント
このシステムを改善するための詳細なアクションプランを提出せよ。貴社のアクションプランには、これに限定されないが、以下のことを
含めよ:
〇調査能力、調査範囲の判断、根本原因の評価、CAPAの効果、QUの監督、文書化手順の大幅な改善
〇調査の全てのフェーズが適切に実施されることをいかに保証するかについての説明
〇これら及びその他の改善を含めたOOS調査手順の改訂版
〇OOSの結果の無効化が、調査により適切に立証されない可能性があるロットについての顧客への通知
●指摘2
貴社は、品質管理部門に適用される適切に文書化された責任と手順を制定し、品質管理部門に適用されるそれらの文書化された手順に
従うことを怠った。(21 CFR 211.22(d))
<指摘2詳細>
貴社のQUは、分析試験データの信頼性とインテグリティを保証することを怠った。例えば、我々査察官は、貴社の主要な廃棄物処理エリア
内で、多数の、破かれ廃棄されたCGMP文書の原本を発見した。これらの廃棄された原本には、これだけではないが、分析用秤の計量結果
の印刷物、pHメーターの印刷物、分析法の検証記録などが含まれていた。廃棄された秤の印刷物には、原材料および最終製品(米国市場
向けを含む)の試験で記録された重量とは異なる試験重量が記載されていることが確認された。質量分析用ソフトウエアの監査証跡レビュ
の評価中に、我々査察官は、2022年1月16日~2025年1月23日の間に、貴社のラボの分析者が“ピークの追加/変更/削除”や、“ディスク上の
既存ファイルの変更”のユーザ権限に関連する数百件の入力を行ったことを立証した。
データ・インテグリティは、CGMPデータのライフサイクルで、データの生成、変更、処理、保持、アーカイブ、検索、伝送において重要である。
顧客は、医薬品の品質に関する判断をするために、貴社の生成したラボのデータのインテグリティに頼っている。
電子記録内の情報の追加、削除、変更が承認され適切に文書化されていることを保証するために電子データを厳格に管理することが重要
である。
貴社は回答の中で、品質監視の欠如とCGMP文書の適切な管理手順の欠如が、これらの欠陥の根本原因であるとしている。貴社はサンプル
とシステムの監査証跡をレビュするために、プロトコルベースの調査を実施していると述べている。
貴社の回答は不十分である。貴社は廃棄されたデータにより、報告された試験結果が医薬品の規格に不合格になった可能性があるかどうか
についての科学的評価を提供していない。
貴社の品質システムは不十分である。CGMPの21 CFR part 210, 211の規制要件を満たすよう貴社のラボの作業において適切な品質
部門(QU)の実装を助けるために、FDAのガイダンス文書Quality Systems Approach to Pharmaceutical Regulationsを見よ。
この文書への回答の中で、以下の情報を提供せよ:
・貴社のQUが効果的に機能するために、権限とリソースを与えられていることを保証するための包括的なアセスメントと改善の計画
アセスメントは、これに限定されないが、以下のことを含むべきである:
〇貴社で使用されている手順が安定していて適切かどうかの判断
〇適切な手順の遵守を評価するための、貴社の作業全体のQUの監督に関する規定
〇調査の監督と承認
・文書化手順の不十分な箇所を特定するための、貴社のラボの作業全体で使用されている文書化システムの包括的で独立したアセスメント
貴社が、作業全体で、帰属性、判読性、完全性、原本性、正確性、同時性のある記録を保持していることを保証する文書化手順を包括的に
改善する詳細なCAPAの計画を立てよ。
・貴社のラボの業務、手順、方法、装置、文書、分析者の能力の独立した評価
このレビュに基づき、貴社のラボのシステムを改善し、効果を評価するための詳細な計画を提出せよ。
●CGMPコンサルタントの推奨
貴社で確認した違反の性質に基づき、我々は、貴社がCGMPの要件を満たすのを助けるために、21 CFR 211.34に記載された適格性の
あるコンサルタントを雇うことを強く勧める。貴社のコンサルタントの使用は、CGMPを遵守するための貴社の義務を軽減するものでは
ない。貴社の経営陣には、継続的にCGMP遵守を保証するために、全ての不備とシステムの欠陥を解決する責任が残る。
●結論
この文書で挙げた違反は、貴社の施設に存在する違反の包括的なリストではない。貴社には、これらの違反を調査し、原因を判断し、
再発やその他の違反の発生を防止する責任がある。
全ての違反を速やかに是正せよ。全ての違反に完全に対応され、我々が貴社のCGMPの遵守を確認するまで、FDAは貴社の医薬品
受託試験機関としての新薬の申請やリストの補完の承認を保留するだろう。また、我々は、貴社が全ての違反に対する是正処置を完了
したことを確認するために査察を行うかもしれない。
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ゴミ置き場の中から破れたGMP文書を発見し、データ・インテグリティの指摘をするとは驚きました。
FDAは2025年5月に、海外の製造施設の抜き打ち査察を拡大すると発表しています。
抜き打ちでゴミを確認する査察は、かなり恐ろしい気がします。