今回は、米国食品医薬品局(FDA) がカナダのOTC医薬品の製造業者に対して発したウォーニングレターを取り上げます。
注:文中のXXはウォーニングレターでマスキングされている文言及び具体的な社名・品名等です。
出典:https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/everlaan-organics-inc-dba-maple-organics-707956-08112025
************************ Warning Letter 320-25-99 概要 ***********************
FDAがFD&C Act 704(a)(4)に従って2024年9月4日にカナダのOTC医薬品の製造業者に対して記録の要求を行い、提出
された記録をレビュした結果、医薬品製造に関するCGMP違反を確認され、2025年8月11日付で以下の内容のウォーニングレター
が出ました。
●指摘1
貴社はリリース前に、各有効成分の同一性、濃度を含む医薬品の最終規格への適当性について、医薬品の各ロットの適切な試験
の判断を怠った。(21 CFR 211.165(a))
<指摘1詳細>
貴社はXXのためのXX製品を含むOTC医薬品を製造している。貴社が提出した記録と情報によると、貴社は米国への流通に
むけた出荷前にOTC医薬品の最終製品を適切に試験していることを示していなかった。
貴社の最初の回答では、貴社はリリース前に最終医薬品の各ロットを試験していると述べている。しかし、FDAが貴社に試験
データの提供を求めた際、貴社はリリース前に最終製品の試験をしていることを示す記録を提出することを怠った。貴社は
最終製品のリリース試験をしていないように見える。
医薬品のリリースと出荷の前に、同一性、濃度、不純物を含む完全なリリース試験が実施されなければならない。適切な試験
を実施していなければ、リリース前に貴社の医薬品が適切な規格を満たしていることを保証する科学的なエビデンスがない。
この文書への回答の中で、以下の情報を提供せよ:
・ロットの処遇の判断の前に貴社の医薬品の各ロットを分析するために使用された適切な試験方法を含む化学及び微生物学
的な規格のリスト
〇この文書の日付時点で使用期限内にある米国に出荷された全てのロットの品質を判断するために、保管サンプルの
全ての化学及び微生物学的な試験を実施するためのアクションプランとタイムライン
〇各ロットの保管サンプルの試験から得られた全ての結果の概要
もしそれらの試験結果で、基準を満たさない医薬品が判明した場合は、顧客への通知や製品の回収などの迅速な是正
処置を講じよ。
・貴社の試験の業務、手順、方法、機器、文書、分析者の能力の包括的で独立したアセスメント
このレビュに基づき、貴社の試験システムの改善と有効性の評価のための詳細な計画を提出せよ。
●指摘2
貴社は、医薬品の各成分について、同一性を確認するために少なくとも1つの試験を実施することを怠った。(21 CFR 211.84(d)(1))
<指摘2詳細>
貴社がOTC医薬品の製造に関して提供した記録と情報によると、貴社は入荷した成分の各ロットを出荷単位で適切に試験
していることを示していなかった。
貴社の最初の回答では、貴社は、“受入手順により全ての品目を確認している”と述べ、受入手順を提供した。しかし、その
手順は、入荷した成分の化学的同一性試験を規定していなかった。また貴社はFDAによるその後の要請に対し、米国に出荷
された最新のロットに関する入荷成分の試験データも提供しなかった。
適切な試験を実施していなければ、貴社には、医薬品の製造に使用する前に、入荷した原材料が適切な規格に適合して
いるという科学的なエビデンスがない。製造業者として、貴社には、適切な品質を保証するために、入荷した原材料を使用前
にサンプリングし試験し検査する責任がある。
この文書への回答の中で、以下の情報を提供せよ:
・入荷原材料の全てのサプライヤがそれぞれ適格性を評価され、原材料には適切な使用期限またはリテスト日が付与されて
いるかどうかを判断するための、貴社の原材料システムの包括的で独立したレビュ
レビュでは、入荷した原材料の管理が、不適切な原材料の使用を防ぐために適切かどうかも判断する必要がある。
・製造に使用するために、入荷した成分の各ロットを試験しリリースするために貴社が使用している化学及び微生物学的な
品質管理の規格
・貴社がどのように、入荷した原材料の各ロットを、同一性に関する全ての適切な規格への適合性を試験するかの記述
貴社が、入荷した原材料の各ロットについて、他の試験を実施する代わりに、サプライヤの分析証明書(COA)の結果を
受け入れるつもりであれば、サプライヤが一貫して規格を満たす原材料を提供することを証明するための適切なエビデンス
を貴社が持っていることをいかに保証するつもりかを明記せよ。さらに、入荷した原材料の各ロットについて、少なくとも
1つの特定の同一性試験を常に実施するというコミットメントを含めよ。
・入荷した原材料の各製造業者から得たCOAの信頼性を評価するために、全ての入荷原材料の試験から得られた結果の
サマリ
このCOAのバリデーションプログラムについて記述した貴社の標準操作手順も含めよ。
・貴社が製造した医薬品の試験をする契約施設の適格性評価と監督に関する貴社のプログラムのサマリ
●指摘3
貴社は、医薬品の安定性を評価するために設計し適切に文書化された試験プログラムを制定しそれに従うことを怠った。
(21 CFR 211.166(a))
<指摘3詳細>
貴社が提供した記録と情報によると、貴社は貴社の製造しているOTC医薬品に関する適正な安定性プログラムを持って
いることを示していなかった。貴社は安定性試験の手順を提供したが、加速試験についてのみ述べていて長期安定性試験
は含んでいなかった。安定性データの代わりに、実施される様々な安定性試験の概要を示す契約試験機関からのコストの
見積を提出した。我々は、貴社の微生物学的試験の1つは、医薬品ではなく栄養補助食品の評価を目的とした米国薬局方
<2021>を参照していることを確認した。
適切な安定性試験を実施していなければ、貴社は、貴社の医薬品が、ラベル表示された使用期間中、制定された規格を
満たし、その品質特性を保持しているかどうかを裏付ける科学的なエビデンスがない。
この文書への回答の中で、以下の情報を提供せよ:
・貴社の安定性プログラムの妥当性を保証するための、包括的で独立したアセスメントと是正処置・予防処置(CAPA)の
計画
貴社の修正されたプログラムは、これに限らないが、以下の事を含める必要がある:
〇安定性を示す方法
〇出荷許可前の、販売される密閉容器内の各医薬品の安定性の検証
〇うたわれている使用期限が妥当かどうか判断するための、各製品の代表的なロットが毎年プログラムに追加される
ような継続的な安定性プログラム
〇各ステーション(タイムポイント)で試験される特定の属性の詳細な定義
・修正された安定性プログラムのこれら及びその他の要素を述べた全ての手順
●指摘4
貴社は、医薬品の各ロットについて、製造、加工、包装、保持の重要な各ステップの実績の文書を含む、ロット製造指図記録
を作成することを怠った。(21 CFR 211.188(b))
<指摘4詳細>
我々の記録の要求に応じて貴社が提供したバッチレコードには、これに限らないが、主要な機器とラインの確認、工程内管理、
収率、容器密閉を含む重要な製造ステップに関する製造の詳細が不足していた。この文書は、製造プロセスが一貫して遵守
され再現可能であることを証明するために必要である。不完全な記録では、調査目的のために必要なアクションのトレーサ
ビリティが失われる。
この文書への回答の中で、以下の情報を提供せよ:
・重要で、バリデートされた各製造ステップが完全に文書化されていることを示す貴社の医薬品の製造指図書原本
・文書化業務が不十分な箇所を特定するための、貴社の製造作業全体で使用されている文書化システムの完全なアセス
メント
貴社が、貴社の作業全体を通じて、帰属性、判読性、完全性、原本性、正確性、同時性のある記録を保持していることを保証
するための、貴社の文書化業務を包括的に改善する詳細なCAPAの計画を含めよ。
●指摘5
貴社は、全ての成分、医薬品容器、蓋、工程内原料、包装材料、ラベル、および医薬品の承認/不承認をする責任と権限を
持った適切な品質管理部門を制定することを怠った。 (21 CFR 211.22(a))
<指摘5詳細>
貴社が提供した記録と情報は、貴社の品質部門(QU)が、貴社の医薬品製造作業の品質を監督する責任を効果的に果たし
ていないことを示している。具体的には、貴社のQUは、成分の承認/不承認、最終医薬品の承認/不承認、バッチレコード
のレビュ、適切な安定性検証プログラムの制定と実施、適切なプロセスバリデーションの実施において、その権限を適切に
行使しなかった。
貴社の手順は、貴社のQUの体制とQUの役割と責任の概要説明を示していなかった。我々は、貴社が製造を中止し、貴社の
医薬品を製造するために、製造受託機関(CMO)のXXに依頼をする計画をしていることを認識している。
この文書への回答の中で、以下の情報を提供せよ:
・QUが効果的に機能するために権限とリソースを与えられていることを保証するための包括的なアセスメントと改善の計画
アセスメントは、これに限定されないが、以下のことも含むべきである:
〇貴社で使用されている手順が安定していて適切かどうかの判断
〇適切な手順の遵守を評価するための、貴社の作業全体のQUの監督に関する規定
〇QUがロットの処遇を判断する前の、各ロットとそれに関連する情報の完全で最終的なレビュ
〇調査の監督と承認と、全ての製品の同一性、濃度、品質、純度を保証するためのQUのその他全ての職務の放免
●製造受託施設の使用
貴社の製造受託施設候補XXは、CGMP要件への不適合により、XXの輸入警告措置66-40の対象となった。製造受託施設
候補で製造された医薬品は不純物が混入しているとみなされるため、米国市場向け医薬品の製造に使用するべきではない。
貴社の製造受託施設がCGMP、FD&C Actの適用要件、PHS法、および適用されるすべての規制を完全に遵守していることを
保証するために適切なデュー・デリジェンスを実施するのは貴社の責任である。
医薬品はCGMPに準拠して製造されなければならない。FDAは、多数の医薬品製造業者が製造施設、試験機関、包装業者、
ラベル業者などの独立した請負業者を使用していることを認識しているす。FDAは、請負業者を製造業者の延長とみなす。
貴社は、製造受託施設との契約内容に関わらず、貴社の医薬品の品質に責任がある。貴社には、医薬品が安全性、同一性、
濃度、品質、純度を保証するために、FD&C Act501(a)(2)(B)に従って製造されていることを保証することが求められている。
FDAのガイダンス文書Contract Manufacturing Arrangements for Drugs: Quality Agreementsを見よ。
●品質システム
貴社の品質システムは不十分である。CGMP規制要件21 CFR part210,211を満たすために、品質システムとリスクマネジ
メントアプローチを実装する助けとして、FDAのガイダンス文書Quality Systems Approach to Pharmaceutical CGMP
Regulationsを見よ。
●CGMPコンサルタントの推奨
貴社で確認した違反の性質に基づき、貴社が米国市場向けの医薬品の製造を再開するつもりであれば、我々は、貴社の
作業を評価し貴社がCGMPの要件を満たすのを助けるために21 CFR 211.34に記載された適格性のあるコンサルタント
を雇うことを強く勧める。適格性のあるコンサルタントは、貴社がFDAと共に貴社のコンプライアンス状態の解決を達成
しようとする前に、貴社の全ての作業を対象に、CGMP遵守に関する6つのシステム(※)の包括的な監査を実施し、全ての
CAPAの完了と効果を評価する必要がある。
貴社のコンサルタントの使用は、CGMPを遵守するための貴社の義務を軽減するものではない。貴社の経営陣には、
継続的にCGMP遵守を保証するために、全ての不備とシステムの欠陥を解決する責任が残る。
※6つのシステム:品質システム、設備&装置システム、原材料システム、製造システム、包装&ラベル貼付システム、試験
管理システム
●未承認新薬と不正商標表示の違反
省略
●結論
この文書で挙げた違反は、貴社の施設に存在する違反の包括的なリストではない。貴社には、違反を調査し、原因を判断
し、再発やその他の違反の発生を防止する責任がある。
FDAは、2025年5月23日に、貴社から米国に輸入用に提供された全ての医薬品及び製品の輸入警告措置66-40をとった。
さらに、FDAは、2025年6月30日に貴社の製品XXとXXの輸入警告措置66-41をとった。
全ての違反を速やかに是正せよ。全ての違反に完全に対応され、我々が貴社のCGMPの遵守を確認するまで、FDAは
貴社の医薬品製造業者としての新薬の申請やリストの補完の承認を保留するだろう。また、我々は、貴社が全ての違反に
対する是正処置を完了したことを確認するために査察を行うかもしれない。
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このウォーニングレターでは、製品の試験や原材料の試験が不十分、安定性の管理が不十分、製造指図記録書が不完全、
品質管理部門が機能していないと、さんざんな指摘がされていましたが、これらがオンサイトの査察ではなく、FDAに提出
された記録のレビュからだけで行われている点に驚かされます。
安定性試験の記録として契約試験機関の見積書が提出されたという話からすると、提出された記録はよほどのものだった
のかもしれません。ちょっと興味深いです。
