今回は、米国食品医薬品局(FDA) がカナダの医薬品製造業者に対して発したウォーニングレターを取り上げます。
注:文中のXXはウォーニングレターでマスキングされている文言及び具体的な社名・品名等です。
出典: https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/apotex-inc-714137-10312025
**************************** Warning Letter 320-26-12 概要***************************
2025年4月28日~5月9日のFDAによるカナダの医薬品製造所の査察において医薬品製造に関するCGMP違反がみつかり、2025年10月31日
付でウォーニングレターが発行されました。
●指摘1
貴社は、ロットがすでに出荷されたかどうかに関わらず、制定された規格を満たさないロットまたはその成分の説明のつかない不一致や不具合
を徹底的に調査することを怠った。(21 CFR 211.192)
<指摘1詳細>
貴社は米国市場で流通しているXX液剤、XX液剤、XXスプレー医薬品に関する適切な調査を実施することを怠った。例えば、貴社は重要な機器
の不具合や容器栓の完全性の問題について、根本原因を評価したり影響を受けた可能性のある他のロットについて評価したりするための適切
な調査をタイムリに実施しなかった。
2023年9月から2025年4月の間に、貴社はXX漏れの試験中に少なくとも8件の不具合を適切に調査することを怠った。XX漏れの試験は、XXの
完全性を検証するために重要である。生産担当者は、確認された不具合の根本原因を調査する代わりに、合格の結果が得られるまで漏れの
試験を繰り返し実施した。その結果、生産担当者は、1年以上にわたって、XXの完全性の不確実性に適切に対処することなく、XX製品を無菌で
充填するためにXXを使用した。
さらに、我々が査察した際、貴社がこの問題を調査している間に、滅菌済み成分を入れるために使用されている複数のXXを含むXXシステムの
30箇所以上で漏れが発見された。
特に、我々の査察前に、別の規制当局がXXの完全性の問題を既に確認していた。
また、貴社は、XX液剤の容器栓の完全性の不具合に関連する出荷済のロットの問題のレビュや影響の評価を徹底的に実施することを怠った。
2024年6月17日に貴社はXX液剤の安定性試験サンプルの蓋の下にXXの残留物を発見した。貴社の調査は、根本原因は、容器栓のライナーの
製品の処方との非対応と、蓋の密閉不良によると結論づけた。この非対応が、蓋のライナーの腐食と、製品の漏れにつながった。貴社は、リスクを
“好ましくない/ハイリスク”と判断したが、当時、米国で流通している製品について、市場への措置は講じられなかった。
さらに貴社は安定性試験プログラムの一環として、複数の製品の各ユニットを試験した際にみつかったXXの過剰な損失という繰り返しの事象に
ついて十分な調査を実施しなかった。
貴社は回答の中で、査察中に指摘された具体的な事項に対処するために、標準操作手順書(SOP)の改訂を含む是正処置・予防処置(CAPA)を
実施したと述べている。また貴社は、市販後のデータを独立したコンサルタントに評価させ、逸脱事例と貴社のエスカレーション手順の回顧的な
レビュを実施することも約束した。加えて貴社は、XX漏れ試験をバッチレコードに記録することと、品質部門に全ての漏れ試験のレビュをさせる
ことも約束した。
我々は、貴社がこれらの製品の一部をその後に回収したことは認識しているが、貴社がタイムリにこれらの問題を確認し是正しなかったことに
ついて適切に対応していないので、貴社の回答は不十分である。我々の査察後の事後的な対応は、製品品質に影響を与える可能性のある逸脱
を包括的に調査し、タイムリで適切な措置を講じることを保証するために貴社の品質システムをいかに改善するつもりか、十分に説明していない。
品質部門には、調査が科学的に理にかなっていて、入手可能な全てのデータを考慮し、影響を受けた可能性のある全ての医薬品に調査範囲を
広げ、公衆衛生を保護するためのタイムリで適切な措置を講じることにつなげることを保証する責任がある。
この文書への回答の中で、以下の情報を提供せよ:
・逸脱、不一致、苦情、規格外(OOS)の結果、不具合を調査するための貴社のシステム全体の包括的で独立したアセスメント
このシステムを修正するための詳細なアクションプランを提出せよ。貴社のアクションプランには、これに限定されないが、調査能力、調査範囲
の決定、根本原因の評価、CAPAの有効性、品質部門による監督、文書化された手順の大幅な改善を含める必要がある。調査の全ての段階が
適切に実施されることを貴社がいかに保証するかについても説明せよ。
・貴社のCAPAのプログラムに関する独立したアセスメントと改善計画
プログラムに、根本原因の効果的な分析、CAPANの有効性の保証、調査の傾向の分析、必要に応じてCAPAプログラムの改善、品質部門に
よる最終決定の実施、経営陣による全面的なサポートが含まれているかどうかを評価したレポートを提出せよ。
●指摘2
貴社は、無菌をうたう医薬品の微生物汚染を防止するために設計された、適切な文書化された手順を制定し遵守すること、全ての無菌及び滅菌
操作のバリデーションをすることを怠った。また貴社は適切なサイズの明確に定義されたエリア内で作業を行うことを怠り、無菌処理エリア内で
汚染や取り違えを防ぐために必要な分離された、または明確に定義されたエリア、またはその他の管理システムを持つことを怠った。
(21 CFR 211.113(b) & 211.42(c)(10))
<指摘2詳細>
〇洗浄、除染、メンテナンス
貴社は、無菌医薬品の製造に使用されるXXを適切に洗浄、除染、メンテナンスすることを怠った。例えば、我々査察官は、無菌医薬品XXの製造
に使用されるXXの劣化と損傷の複数の事例を確認した。これらの劣化と損傷の事例は、貴社の洗浄、除染、メンテナンスのプログラムにより
適切に対処されていなかった。例えば、我々査察官は、以下のことを発見した:
・変色したXXグローブ
・XX周辺の過剰なシーリング材
・機器内部の表面の原因不明の様々な変色(例:乾燥した医薬品の残留物の可能性)
・XX環境内の著しく変色したプラスチック製器具
・劣化したガスケットシール
さらに、貴社の職員は制定されたXXの除染手順を遵守することを怠った。貴社の手順では、XXは“しわがないこと”を規定しているにもかかわら
ず、除染サイクル中のXXグローブに多数のしわがみつかった。内部表面へのXXの不完全な曝露は、除染効果を損ない、XX環境を汚染のリスク
にさらす。
メンテナンスに関し、我々査察官は、XX除染サイクル中に密閉環境を維持するために使用されている複数の“仮のカバー”にテープが張られて
いる事例を複数確認した。テープの使用は非衛生的な行為であり、貴社はこのテープの存在を説明できなかった。メンテナンス及び変更管理の
手順は、機器を損なったり汚染リスクを招いたりする可能性のある行為を防止する必要がある。
貴社の予防保全スケジュールは、XXグローブのガスケットのような重要な機器に関する時間枠が不足している。漏れが発生した時にはじめて
重要機器(例:グローブ、ガスケット)を交換することは容認できない。このような事後対応のメンテナンスのアプローチは、XX技術の重大な
故障モードを防止できない。
装置の完全性のためには、適切な完全性試験、洗浄および消毒の方法、故障や劣化が発生する前の積極的な交換を定めた包括的な予防保全
手順を通じて、日常的に注意が払われる必要がある。
特筆すべきは、貴社は、医薬品XXの3つの異なるロットの製造中に、汚染のリスクを生じさせるXXのグローブの破損事故をXX件経験していた。
破損事項のうち1件では、6㎜の穴が開いたグローブを“ケーブルタイ”でふさいで作業を続行していた。この行為は、グローブの完全性の喪失
に関連したXXの破損を十分に軽減していないので容認できない。貴社はこれらの製品をリリースしたが、我々の査察の後に回収した。
〇環境モニタリング
貴社の環境モニタリングプログラムは、無菌処理ラインを適切にモニタできないため不十分である。例えば、XX内の重要エリアで非生存粒子
の継続的なモニタリングが不足している。代わりに貴社は開放的な処理が行われる重要エリアから離れた場所に設置された単一のモニタ
リングプローブに依存している。貴社の不十分で限定的なモニタリングでは、バッチ処理中の製品へのリスクを判断するために十分で有意義
なデータを得られない。
貴社のCAPAはタイムリでないので貴社の回答は不十分である。貴社は、長期間にわたって発生していた違反が規制当局の査察によって指摘
されるまで有効な是正処置を提案していない。さらに、XXグローブの“しわを最小限にする”ために文書化された手順を改訂するというだけの
貴社のCAPAのコミットメントは、全てのグローブ表面が汚染除去剤XXに接触することを保証するかが不明である。
無菌処理は、滅菌済の物質が潜在的な汚染の危険にさらされることを最小限にするために設計される必要がある。適切なモニタリングシステム
は、貴社のXXとクリーンルーム全体で適切な環境条件を維持するために不可欠である。問題の発生を迅速に検出することは貴社の無菌製造
作業における汚染を防ぐために不可欠である。貴社の無菌処理環境の管理状態に関する有益な情報を提供するために、厳格で迅速に対応
できる環境モニタリングプログラムが設計される必要がある。
貴社が無菌工程で無菌医薬品を製造する際のCGMP要件を満たす助けとして、FDAのガイダンス文書Sterile Drug Products Produced by Aseptic Processing – Current Good Manufacturing Practiceを見よ。
この文書への回答の中で、以下の情報を提供せよ:
・貴社の変更管理システムの包括的で独立したアセスメント
このアセスメントは、これに限定されないが、変更が貴社の品質部門によって正当化され、レビュされ、承認されることを保証するための手順
を含める必要がある。貴社の変更管理プログラムは、変更の効果を判断するための規定も含める必要がある。
・これに限定されないが、以下のことを含む独立したアセスメントを含む、貴社の無菌工程、機器、施設に関する全ての汚染の危険の包括的な
リスクアセスメント:
〇無菌処理作業の広範な回顧的レビュと予測的見解に基づく実際の業務の適切性
〇製造の管理監督上の不備と、全てのロットの効果的で日常的な監督管理を保証するための具体的な改善策の特定
〇無菌処理とその支援作業についての品質部門による監督の頻度と深さ(例:監査、随時対応、日常的なやりとり)
〇文書化された手順の妥当性
・施設及び機器の定期的で厳格な運用管理監督を実施するための貴社のCAPAの計画
この計画は、とりわけ、機器/施設の性能問題の迅速な検知、効果的な修理の実施、適切な予防保全スケジュールの遵守、施設/設備のインフラ
ストラクチャへのタイムリな技術的アップグレード、継続的なマネジメントレビュのためのシステムの改善を保証する必要がある。また貴社の
計画は、貴社のネットワーク全体で、適切なアクションが講じられることを保証する必要がある。
●指摘3
貴社は、公式またはその他の制定された要件を超えて医薬品の安全性、同一性、濃度、品質、純度を変える誤動作や汚染を防ぐために、適切
な間隔で機器や器具を洗浄、メンテナンスし、医薬品の性質に従って消毒・殺菌することを怠った。(21 CFR 211.67(a))
<指摘3詳細>
貴社は貴社の機器を適切に維持することを怠った。例えば、査察中、我々査察官は、米国市場向けに流通しているスプレー医薬品XXを製造
するために使用される製造機器の表面に白い粒子が付着していることを確認した。査察官は粒子の発生源はXXから生じるXXであることを
確認した。査察官は、容器栓の部品(例:XX)を充填作業のために搬送するコンベア上で粒子を確認した。貴社は、既存のXXの設計改良版
(例:XX)を含む機器を我々の査察の約1年前に購入していた。しかし貴社は、粒子が発生する劣化したXXを使って製造を続けた。これは、
汚染の危険を是正し予防するために必要な機器の改良をタイムリに実施するという貴社のメンテナンスプログラムの不備を示している。
貴社のCAPAはタイムリでないので、貴社の回答は問題が起きてから対応していて不十分である。貴社は、長期間にわたって発生していた
違反が規制当局の査察によって指摘されるまで有効な是正処置を提案しなかった。
効果的な機器の管理プログラムには、継続的な工程の能力を保証するために、体系的な監視、メンテナンス、タイムリな交換を含む積極的な
ライフサイクルのアプローチが必要である。医薬品品質システムは、タイムリなCAPAを推進するために、機器の性能データ、メンテナンスの
傾向、リスクアセスメントを統合する必要がある。
この文書への回答の中で、以下の情報を提供せよ:
・交叉汚染の危険の範囲を評価するための、貴社の洗浄効果の包括的で独立した回顧的アセスメント
残留物の特定、不適切に洗浄された可能性のあるその他の製造機器、交叉汚染された製品が出荷のためにリリースされたかどうかの
アセスメントを含めよ。これらのアセスメントは、洗浄の手順と実務の不備を特定し、複数製品の製造に使用される製造機器を対象とする
必要がある。
●不十分な品質システム
この文書に記載されている重要な指摘事項は、貴社がCGMPに準拠した効果的な品質システムを運用していないことを示している。貴社の
製造作業に対する効果的な管理監督の欠如に加えて、我々は、貴社の品質部門が、適切な権限を行使できていない、かつ/または、その責任
を十分に果たしていなかったことを確認した。経営陣は、貴社のシステム、工程、製品がFDAの要件に適合していることを保証するために、
貴社のグローバルな製造作業を、すぐに包括的に評価する必要がある。
CGMPの規制要件21 CFR parts 210,211を満たすための品質システムとリスクマネジメントアプローチを実装するために、FDAの
ガイダンス文書Quality Systems Approach to Pharmaceutical CGMP Regulationsを見よ。
●目視検査プログラム
貴社が、貴社の目視検査プログラムを評価するために、独立した第三者のコンサルタントを使用していることを認識している。以下の項目に
ついて検討せよ:
・CGMPへの準拠を保証するための、貴社の目視検査プログラムに関する包括的なアセスメントと改善計画
改善計画には、米国薬局方(USP)<790>注射剤中の可視粒子と、USP<XX>容器のタイプ毎の容器固有の試験プロトコル(例:半透明
容器、不透明容器)を含む製品品質試験を組み込む必要がある。貴社の戦略には、以下の事項を含める必要がある:
〇目視検査が可能な検査困難製品(DIP)(例:半透明容器)に関して、必要に応じて背景コントラスト法を用いた強化照明による100%目視
検査の実施
〇目視検査が不可能な医薬品に関して、重大な欠陥を試験するために、適切な統計的に有意なサンプル数を使った破壊試験(例:目に
見えない粒子状物質)の実施
〇従来の目視検査が適用できない場合は、工程管理を保証し、ろ過及び環境管理を含む製造管理を強化するために、バルク液剤及び
充填/仕上げ作業の両方についての、工程内の可視粒子試験の定期的な実施
〇USP<790>、USP<XX>、CGMP要件の継続的な準拠を保証するための、製品知識、工程経験、逸脱の調査分析、回収/苦情データを
取り入れた製品固有のリスクベースの目視検査アプローチの開発
●医薬品生産停止と回収
査察後、CAPAが特定され実施されている間、無菌の液剤医薬品XX及び少量のXXスプレー医薬品 (すなわちXXスプレー)を含む、
米国市場向けの施設での特定の医薬品の製造と出荷を一時的に停止したことを我々は認識している。
また我々は、レビュに基づき貴社がいくつかの自主回収を開始したことも認識している。
・2025年5月28日、貴社は、製造中に発生したXXグローブの破損事象により、XX点眼薬(ロットVD1654)、XX点眼薬(ロットTZ1236)、
XX点眼薬(ロットVC6058)を自主回収した。
・2025年5月28日、貴社は、製品の漏れにより、XX経口液剤ロットTZ5589を自主回収した。
●結論
この文書で挙げた違反は、貴社の施設に存在する違反の包括的なリストではない。貴社には、違反を調査し、原因を判断し、再発やその
他の違反の発生を防止する責任がある。
全ての違反を速やかに是正せよ。全ての違反に完全に対応され、我々が貴社のCGMPの遵守を確認するまで、FDAは貴社の医薬品製造
業者としての新薬の申請やリストの補完の承認を保留するだろう。我々は、貴社が全ての違反に対する是正処置を完了したことを確認する
ために査察を行うかもしれない。
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このウォーニングレターでは、
・発生した不具合の十分な調査の不足
・無菌医薬品の製造工程の機器の洗浄の不備や環境モニタリングの不備
が指摘されていました。
不具合を調査せず合格結果が得られるまで試験した、現場に汚染リスクのあるテープが貼られていた等、具体的な事例が載っていて
興味深い内容です。
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2025年11月25日(火) 12:30-16:30、情報機構社主催で、改訂予定EU GMPガイドラインAnnex11に関するセミナを開催します。
改訂内容や対応のための準備にご興味をお持ちの方は是非ご参加ください。
●セミナ名:
EU GMPにおけるコンピュータ化システムの改訂動向とその対応~Annex11等における新たな要求事項・変更点と実施すべき事柄など~
●日時:
2025年11月25日火曜日12:30-16:30
●会場:
[東京・大井町]きゅりあん5階第2講習室
http://www.johokiko.co.jp/access/kyurian/
●本講座ホームページアドレス:
https://johokiko.co.jp/seminar_medical/AA2511N5.php
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