今回は、米国食品医薬品局(FDA) が中国の医薬品製造業者に対して発したウォーニングレターを取り上げます。
注:文中のXXはウォーニングレターでマスキングされている文言及び具体的な社名・品名等です。
出典:https://www.fda.gov/inspections-compliance-enforcement-and-criminal-investigations/warning-letters/guangxi-yulin-pharmaceutical-group-co-ltd-710422-09302025
*************************** Warning Letter 320-25-117 概要 ***************************
2025年3月17日~3月21日のFDAによる中国の医薬品製造所の査察において、医薬品製造に関するCGMP違反がみつかり、2025年9月30日
付でウォーニングレターが発行されました。
●指摘1
貴社はリリース前に、各有効成分の同一性、濃度を含む医薬品の最終規格への適合性について、医薬品の各ロットの適切な試験の判断を
怠った。(21 CFR 211.165(a))
<指摘1詳細>
貴社は貴社のOTC医薬品XXに関して必要とされる適切なラボの試験による判断を怠った。例えば、貴社は医薬品のリリースと出荷の前に、
有効成分の同一性と濃度に関する試験を実施しなかった。これは2016年の査察時にも指摘された事項である。
貴社は回答の中で、米国に出荷されたロットの保管サンプルについて有効成分の試験を実施し、リスクアセスメントを行う意向を示した。しかし
貴社は医薬品がリリースされる前に適切な試験が実施されることを保証するための包括的な是正処置・予防処置を提案していないため、貴社
の回答は不十分である。さらに貴社は、試験結果が規格外だった場合に、出荷済の医薬品に対してどのような措置を講じるのか示していない。
医薬品のリリースと出荷の前に有効成分の濃度と同一性の試験を含む完全なリリース試験が実施されなければならない。適切な試験を実施
しなければ、貴社には、貴社の医薬品がリリース前に適切な規格に準拠していることを保証する科学的なエビデンスがない。
●指摘2
貴社は、成分、医薬品の容器、蓋、工程内原料、ラベル、製品が、同一性、濃度、品質、純度の適切な基準に準拠していることを保証するために
設計された、科学的に妥当で適切な規格、基準、サンプリング計画、試験手順を含む試験管理を制定することを怠った。(21 CFR 211.160(b))
<指摘2詳細>
貴社は、貴社の試験方法が、貴社の医薬品が同一性、濃度、品質、純度に関する適切な基準に準拠していることを保証するために適切であると
示すことを怠った。例えば、貴社の試験方法と規格は、中国薬局方(ChP)に基づいている。しかし貴社は、これらの試験方法と規格が科学的に
妥当で適切であること、または、それらが現在の米国薬局方(USP)収載試験法と同等またはそれ以上のものであることを立証することを怠った。
貴社は回答の中で、貴社はChPとUSPのXXとXXに関する試験方法の違いを比較し、改訂された方法のバリデーションを実施すると述べている。
しかし、貴社は、システム適合性試験及びその他の成分や最終医薬品の試験に使用される方法と規格の妥当性を包括的に評価することを怠って
いるので、貴社の回答は不十分である。
試験方法は、それらが意図した用途に適していて、USP収載試験方法と同等またはそれ以上のものであることを示すためにバリデートされる
必要がある。貴社の試験方法の再現性は、貴社の医薬品が制定された規格を満たすかどうかを判断するために不可欠である。
適切な試験を実施しなければ、貴社には、貴社の医薬品が、ラベルに表示された有効期限まで、制定された規格を満たすかどうかを裏付ける
科学的なエビデンスがない。
●指摘3
貴社は、医薬品の安定性を評価するために設計された適切に文書化された試験プログラムを制定し、それに従うことを怠った。
(21 CFR 211.166(a))
<指摘3詳細>
貴社は、貴社の医薬品の化学及び微生物学的特性が制定された規格を満たし、ラベルに表示された有効期間を通じて許容可能な状態で
あることを示す適切な安定性データを持っていない。例えば、貴社は、安定性を評価し、貴社の医薬品がXXの有効期間を通じて適切な濃度
と品質特性を満たすことを保証するための適切な安定性プログラム(例:頻度と方法)を制定していなかった。
貴社は回答の中で、貴社が安定性試験期間中は年に1度試験を実施することを提案している。しかし、貴社の回答は、この年次の頻度を
裏付ける科学的な論理的根拠や正式に文書化されたリスクアセスメントを提供していないため、貴社の回答は不十分である。
適切な安定性試験を実施しなければ、貴社には、ラベルに表示された有効期限まで、貴社の医薬品が制定された規格を満たし、品質特性を
維持するかどうかを裏付ける制定された規格を満たすかどうかを裏付ける科学的なエビデンスが不足している。
●指摘4
貴社は、製造指図書原本やその他の記録の変更を権限のある職員のみが実施することを保証するために、コンピュータや関連システムの
適切な管理をすることを怠った。(21 CFR 211.68(b))
<指摘4詳細>
貴社の試験装置は貴社のラボの電子的な生データを削除や改ざんを防ぎ検知するための十分な管理に欠けていた。例えば、貴社の
紫外可視分光光度計(UV-vis)と赤外分光光度計(IR)には監査証跡機能が不足していて、貴社の分析担当者がデータ、ファイル、フォルダを
改ざんしたり削除したりできることがわかった。これは2016年の査察時にも指摘された事項である。
貴社は回答の中で、バッチリリースの前に、有効成分の分析に関する監査証跡のレビュを実施すると約束している。しかし、貴社の約束には、
成分及び最終製品試験に関連する、その他の電子的なラボのデータのレビュが含まれていないので、貴社の回答は不十分である。さらに
貴社は、データの正確性とインテグリティを保証するために設計されたレビュの手順を提供することを怠っている。
貴社の品質システムは、貴社が製造した医薬品の安全性、有効性、品質を裏付けるためのデータの正確性とインテグリティを適切に保証
していない。CGMPに準拠したデータ・インテグリティの実務を確立し遵守するためのガイダンスとして、
FDAのガイダンス文書Data Integrity and Compliance With Drug CGMPを見よ。
●施設での繰り返しの指摘事項の観察
2016年9月29日の前回の査察で、FDAは同様のCGMP違反を指摘した。貴社は回答の中でこれらの指摘事項に対する具体的な改善を
提案した。繰り返しの不具合は、経営陣の医薬品の製造に対する監督と管理が不十分であることを示している。
●CGMPコンサルタントの推奨
貴社で確認した違反の性質に基づき、貴社には、貴社の作業を評価し貴社がCGMPの要件を満たすのを助けるために21 CFR 211.34に
記載された適格性のあるコンサルタントを雇う必要がある。適格性のあるコンサルタントは、貴社がFDAと共に貴社のコンプライアンス
状態の解決を達成しようとする前に、CGMP遵守に関し、貴社の全ての作業の6つのシステム(※)の包括的な監査を実施し、全ての是正
処置・予防処置の完了と効果を評価する必要がある。
FDAの業界向けガイダンス文書Quality Systems Approach to Pharmaceutical CGMP Regulationsを見よ。
貴社のコンサルタントの使用は、CGMPを遵守するための貴社の義務を軽減するものではない。貴社の経営陣には、継続的にCGMP遵守
を保証するために、全ての不備とシステムの欠陥を解決する責任が残る。
※6つのシステム:品質システム、設備&装置システム、原材料システム、製造システム、包装&ラベル貼付システム、試験管理システム
●結論
この文書で挙げた違反は、貴社の施設に存在する違反の包括的なリストではない。貴社には、違反を調査し、原因を判断し、再発やその他
の違反の発生を防止する責任がある。
FDAは、2025年9月26日に、貴社から米国に輸入用に提供された全ての医薬品及び製品の輸入警告措置66-40をとった。
全ての違反を速やかに是正せよ。全ての違反に完全に対応され、我々が貴社のCGMPの遵守を確認するまで、FDAは貴社の医薬品製造
業者としての新薬の申請やリストの補完の承認を保留するだろう。また、我々は、貴社が全ての違反に対する是正処置を完了したことを
確認するために査察を行うかもしれない。
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このウォーニングレターでは、
・リリース/出荷前の試験の不実施
・試験方法のバリデーションの不足
・安定性試験プログラムの不備
と、ラボの試験装置が監査証跡機能を持っていないこと、試験データを削除・改ざんできる状態であること、リリース前に試験データをレビュ
が行われていないことによるデータ・インテグリティの欠如が指摘されていました。
データ・インテグリティを保証するためには、コンピュータ化システムに監査証跡機能や権限の設定が不可欠であることが確認できる内容です。
